ここから
短編アート映画 (2025)
向井山朋子
20分に満たない「ここから」は、全編を通してマキシム・シャリギン作曲のピアノ作品《9つの前奏曲》の、美しい旋律とノスタルジー、そして突然降りかかるような大音響の連打によって紡がれている。
今年1月にロケを行った青ヶ島は、気温こそ20度近くあったが、叩きつけるような風のせいでひどく寒く感じた。島である以上、当然周囲は海に囲まれているはずなのに、そこには海岸線がまったくなく、すべてが断崖絶壁という厳しいランドスケープが広がっていた。撮影は、日本では珍しい植物が繁殖する、深い森というよりはジャングルのような場所で行われた。
数ある伊豆諸島の中で、なぜ青ヶ島に惹かれたのか。それは、「ひんぎゃ」と呼ばれる噴気と蒸気が吹き出す場所の存在を知ったから。あの世とこの世が繋がった穴をもつ島──そんな妄想に囚われたのだった。
「ここから」には、故郷・熊野で毎年2月6日に行われる、1400年の歴史をもつ男だけが参加できる炎の祭祀「お燈まつり」の火が、歴史と現在、聖と俗、女と男とをつなぐアンカーとして現れる。
かつて異界への移動として繰り返されてきた火、焼却の儀式は、やがて民族浄化の火、そして燃え上がる都市の炎と重なっていく。
「ここから」は、アートの行為や芸術的プラクティスに潜む暴力性が、世界の蛮行、伝統という名の不条理、そして終わりの見えないパレスチナへのジェノサイドへと連なっていく。
ここでは、ニュースとアート(人工物)の狭間において、映像の美しさ、倫理的な問いの境界線が曖昧なまま、荒々しく投げ出されている。
クレジット
コンセプト&演出・出演:向井山朋子
音楽:マキシム・シャリギン『9つの前奏曲』(2005)、向井山朋子
撮影監督:北川喜雄
撮影助手:大澤未来、田村孝史
録音:弥栄裕樹
かつら製作:庄司康人
編集:クーン・ハーヘナールス
ポストプロダクション:ネダ・ゲオルギエヴァ
テクニカルディレクター:遠藤豊(Luftzug)
監修:レニエ・ファン・ブルムレン
機材協力:株式会社ニコン、株式会社キューブフィルム
PRコーディネーター:深井佐和子
プロダクションマネージャー:眞鍋弥生、柳澤智子
プロダクションアシスタント:辰己有里
企画・製作:一般社団法人マルタス、株式会社森岡書店
共同企画・製作:Tomoko Mukaiyama Foundation
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】、オランダ舞台芸術財団 (Fonds Podiumkunsten)、アムステルダム芸術基金(Amsterdams Fonds voor de Kunst)
Special thanks to:深田晃、株式会社ソナ、荒井智史、青沼正男、株式会社ハレトケ、Donemus
Premiere | 配信
2025年7月1- 13日 向井山朋子 YouTube