夜想曲

2台の被災ピアノによるインスタレーション(2011年)
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地震があってから数週間後、友人から津波で破壊されて、路上に捨てられたピアノの話を 聞いた。 声も出せず、泥に飲まれて死んでいった何台ものピアノ。その光景はメディアで 伝えられた映像のどれよりも、3.11の悲惨なリアリティとしてとして心に焼き付いた。避 難所のご婦人が再びお化粧を始められたとき、そこに日常が戻る兆しが見えた、と言う。 口紅が普通の生活が戻ってくる最初の印しだった、と聞く。
ここに2台のピアノがある。 泥の中から戻ってきたピアノ。 足がもぎ取られ、ハンマーが ずっしり泥を吸い込んで声が出ないピアノ。 死んだピアノ。 1台はそのまま、できるだけ そのまま、その悲しい姿をさらす。 2台めは少しずつ目が覚める、ゆっくり生きかえる。 皆がそう願っているから。 皆が口紅をつけていく。 ピアノのために、自分のために。
2011年6月15日 向井山朋子

コンセプト

「夜想曲」は、津波によって激しく損なわれ、楽器としての生命を絶たれた2台のグラン ドピアノによるインスタレーションである。避難所となった石巻の小学校に残された、黒 い海水に押し流され、泥が堆積したピアノをギャラリーに移設し、向井山はその表面に「口 紅」を施していくという。 避難所の女性たちにとってメーキャップは日常の恢復へ至る最 初のステップ、あるいは秘符のような役割をもっていたと聞く。赤、ピンク、オレンジ… 訪れる観客によって色とりどりの口紅に塗り固められていくグランドピアノは、女性たち にあたらしい日常への転調を促す、一種の儀礼的な供物としてそこに置かれるのである。 未だ福島の放射能汚染が収拾の兆しが見えず、むしろ深刻さを増す2011 年10 月。東北に おいて初演される「ノクターン」は、おそらくはまだ、〈演じられた日常〉の、捩じれのな かで幕をあげることになるだろう。ピアノのすべらかな表皮で混じりあう、乾いた汚泥と 口紅から発する声なき声は、女性たちは、果たして何を語りはじめるのだろうか?

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クレジット

コンセプト&デザイン:向井山朋子
主催: 東北芸術工科大学、宮本武典、向井山朋子ファンデーション

発表歴

2011年10月10日~11月27日: 展覧会(東北芸術工科大学、山形)
2011年10月15日 :『夜想曲』コンサート(白鷹町文化交流センターあゆーむ、山形)
2011年10月17日 :『夜想曲』コンサート(門仲天井ホール、東京)
2013年 3月 6日 :『夜想曲』コンサート(ジャパン・ソサイエティ、ニューヨーク)
2013年 7月20日~9月10日:展覧会(伊吹島 、香川,瀬戸内国際芸術祭)
2013年 8月17日 : 『夜想曲』コンサート(観音寺、香川)
2013年 8月26日 :『夜想曲』コンサート(ベケットフェスティバル、アイルランド)
2014年 6月 1日~29日 展覧会(アムステルダム、オランダフェスティヴァル)
2014年 6月2日 :『夜想曲』コンサート(アムステルダム、オランダフェスティヴァル )

協力

株式会社コーセー

助成

在日オランダ大使館
アサヒグループ芸術文化財団